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「水道ビジョン(案)」について


特定非営利活動法人 循環型社会研究会 (略称:循環研)
水循環ワークショップ
〒104-0031 東京都中央区京橋1-9-10 フォレストタワー (株)ノルド社会環境研究所内
電話03-5524-7334


私たち循環型社会研究会は、『四次元の水循環』の回復の観点から、「水道ビジョン(案)」(※厚生労働省健康局水道課のホームページで公表されています)について、意見を述べさせていただきます。

『四次元の水循環』とは、わが国の上水道水源の8割近くを河川、湖沼、ダム等の表流水、すなわち地表という二次元の平面上の水に依存している現状に対して、三次元・四次元の水といえる地下水の涵養・保全と有効適正利用を図り、現在から将来への時間次元を勘案した健全な水循環を回復・保全するという考え方です。

二次元の平面上の表流水に対して地下水は、雨水と同様、地表面に対して垂直軸上に存在するという意味で三次元の水です。また、雨水や表流水が地下に浸透し地下水として涵養され、井戸水や湧水として私たちが利用するまでには数年〜数万年を要し、まさにそれは長い時間軸上に存在する、将来世代のための四次元の水ということができます。

自然の地層と重力によってろ過された地下水は、清浄で適度なミネラル分を含んだ人間にとって本当の意味でおいしい水です。また、井戸は地震にも強く、震災時のライフライン確保としても見直されています。地下水を利用した分散型の水道を避難所や医療施設に整備することは、浄水場や管路の耐震化以上に防災上の有効性が高いといえます。

こうした観点から、以下、「水道ビジョン(案)」について、いくつか指摘をさせていただければと存じます。


1. 水道水源の構成に関する記述の追加

〈該当箇所〉
2ページ「2.水道の状況と将来の見通し (水道水源の水質の悪化と水源から給水栓までの水質管理)」

〈意見内容〉
水質悪化の問題は、水道水源の河川、湖沼、ダム等表流水への過剰な依存という問題と不可分です。現状のわが国の水道水源が、欧州諸国等と比べて著しく表流水に依存している割合が高いことを指摘しておくことが必要と考えます。

〈理由〉
例えば下記のようなデータを見ると、わが国の地下水の利用は20%強に過ぎず、ヨーロッパの主要国に比べても非常に低い地下水の利用率といえます。

ヨーロッパ主要国およびわが国の公共水道での地下水利用

単位:%
 
表流水・その他
地下水
デンマーク(1995)
0.0
100.0
オーストリア(1993)
0.7
99.3
スイス(1994)
17.4
82.6
イタリア(1999)
19.7
80.3
ポルトガル(1990)
20.1
79.9
ドイツ(1991)
28.0
72.0
ルクセンブルク(1995)
31.0
69.0
オランダ(1995)
31.8
68.2
フランス(1993)
43.6
56.4
フィンランド(1994)
44.4
55.6
スウェーデン(1994)
51.0
49.0
日本(2001)
78.9
21.1
出典:欧州各国については、European Environment Association(June, 1999)「Groundwater quality and quantity in Europe*」から
日本は厚生労働省「平成13年度水道統計調査」から
*http://reports.eea.eu.int/groundwater07012000/enより入手可能

2. 地下水の涵養、地下水位の管理、地下水有効利用の必要性への言及

〈該当箇所〉
4〜5ページ「水資源をめぐる課題」

〈意見内容〉
地下水に関する記述について、確かに、高度成長期には工業用水等での過剰な揚水による地盤沈下が各地で問題になりました。しかし、その後の規制により地下水位は回復し、水収支の上でも地下水の涵養量が使用量を上回っている地域が多く、地下水は重要な水道水源として位置づけることができます。
逆に最近一部地域では、地下水位の上昇による地震時の液状化の危険性や建築物の浮き上がり現象による被害が懸念されています。地下水位が一定以上の地域では、地下水位を下げる努力が防災対策上も必要であり、地下水の有効利用を積極的に検討する必要を指摘すべきだと思います。浅層地下水については、ヒートアイランド防止や緑化のための散水や中水的な利用のほか、膜ろ過技術を利用すれば飲料水としての供給も十分可能と考えます。

また、人間にとって最もおいしい飲料水の水源確保という観点からは、地下水の涵養の必要性への言及は不可欠だと思います。

〈理由〉
東京都水環境保全計画(平成10年6月)によると、東京都の地下水の涵養量(雨水浸透量及び水道管からの漏水等)は139万?/日、使用量(地下水揚水量、下水管への浸出量等)は102万?/日で、収支は37万?/日のプラスとなっています。

地下水資源の管理・有効利用の重要な指針となる学術的研究としては、水収支研究グループ編「地下水資源・環境論―その理論と実践―」(共立出版)があります。
地下水位と災害リスクに関しては、大阪市立大学の中川康一教授、岐阜大学の杉戸真太教授の研究成果があります。

中川教授は、第13回環境地質学シンポジウム報告書(2003) pp339-344において、地表面近くの自由水だけでなく被圧地下水の水位も地振動の挙動に大きな影響を与えることを指摘しており、第一帯水層以深の地下水を良質の飲料水として利用し、これより上のものは清掃用、公園や街路樹の植栽用、ヒートアイランド現象緩和のための散水用などに利用することが有効との提案をされています。また、杉戸教授の研究成果を紹介した2004年2月6日付け岐阜新聞において、同教授は「地下水を今より少し有効利用することで液状化はかなり軽減できる。抜本的な防災対策として十分に検討する余地がある」と指摘されています。

3. 水道水源の構成目標の明示

〈該当箇所〉
9ページ「長期的な政策目標」、 17ページ「水利用システムの水循環系の中での再構築」

〈意見内容〉
「世界のトップランナーをめざしてチャレンジし続ける水道」を基本理念として掲げるとき、最大のチャレンジ目標は、河川、湖沼、ダム等の表流水への過度の依存からの脱却であり、地下水の涵養、保全、有効かつ適正な利用の推進であると考えます。

そのためのビジョンとして、例えば地下水の公共水道利用率を現状21%から、小規模分散型水道を加え10年後目標30%といった数値目標を明示していただきたいと思います。

〈理由〉
地下水利用の小規模分散型水道を表流水依存の大規模公共水道と比較すると、下記のようなメリットがあり、地下水利用の小規模分散型水道の普及促進は官民あげて取り組むべき価値があると考えます。

表流水依存の大規模公共水道と地下水利用の小規模分散型水道の比較

 
表流水依存大規模公共水道
地下水利用小規模分散型水道
水ライフラインの確保 切迫しているとされる大地震の災害、テロ等で水源・貯水池や送水網の一部に被害を受けるとライフライン全体が断たれる危険がある。 地震に強く、公共水道の渇水・断水時にもライフラインを確保。自家用に近いのでテロ等の攻撃対象にはなりにくい*。設備がシンプルなので被災時も復旧が容易。
異常気象による影響を受けやすく渇水騒ぎが絶えない。 地下水は気象の影響を受けにくい。
省エネルギー・省資源 表流水は気温連動が激しく、夏の冷却エネルギー、冬の加熱エネルギーがかなりかかる。 地下水は夏冷たく冬温かい「恒温性」があるため、夏の冷却エネルギー、冬の加熱エネルギーを節減。 遠隔地のダムや河川等の取水口から延々運ぶ送水コストが莫大。 足もとからの取水なので送水コストはかからない。
巨大浄水施設での複雑多段階の浄水処理により多くのエネルギーが必要。 自然の重力エネルギーによる雨水浸透時の土壌ろ過で基本的な浄水処理が行われている。安全性を高めるろ過設備もコンパクトで低コストである。
健康性・快適性 フミン質を多く含む表流水を塩素処理することで発癌性のあるトリハロメタンが発生。 地下水にはフミン質は非常に少なく、塩素処理は最小限にとどめられ、トリハロメタンの発生は格段に少ない。
O-157、クリプトスポリジウムなどの細菌・原虫が混入する危険がある。 深井戸から取水すれば細菌類の進入は基本的になく、精密膜ろ過を併用すれば、0.1μ以上の原虫や大腸菌も除去。
既設の鉛管、アスベスト管からの有毒物溶出の危険がある。 鉛やアスベストの送水管は不使用。
気温連動の水温、水源水質悪化によるまずい水。 適温で、適度なミネラルを含んだきれいでおいしい水。
地下水及び自然環境の保全 表流水利用に過度に依存し、地下水を利用しないことで、地下水汚染が放置される。 地下水の水系・水量・水質を継続的に調査・検査し、汚染防御と浄化をすることで水循環を健全に管理。
大規模なダム建設、浄水施設、送水施設建設等に伴う大きな環境負荷。 小規模シンプル設備で環境負荷を削減。
*貯水池のテロ攻撃から逃れるには地下水利用が有効であることが、昨年の国際地質環境委員会(ユネスコ)でも話題になりました。

4. 安心しておいしく飲める水としての地下水の評価への言及

〈該当箇所〉
9ページ「長期的な政策目標 @安心:すべての国民が安心しておいしく飲める水道水の供給」

〈意見内容〉
「すべての国民が安心しておいしく飲める水道水の供給」という観点からは、地下水、とりわけ深層地下水の活用が優先的に考えられるべきだと考えます。飲用水用の水源としての地下水について、より積極的に利用を評価する記述を求めます。

〈理由〉
『おいしい水の探求』などの著書で知られる小島貞夫氏は、「冷たくて、炭酸ガスなどが適度に含まれた、サッパリした軟水」として、長い人類史の中で人間のDNAが最もおいしいと感じる水の条件を備えているのが地下水であるとおっしゃっています。(土木学会誌2001年7月号)

5. 災害対策としての分散型地下水利用水道の普及促進

〈該当箇所〉
9ページ「長期的な政策目標 A安定:いつでもどこでも安定的に生活用水を確保」、
22ページ「ウ. 災害対策の充実に係わる方策」

〈意見内容〉
災害対策は、浄水場や管路の耐震化もさることながら、分散型の地下水利用水道の整備がより有効であり、これに関する記述の追加を求めます。

医療施設(特に災害拠点病院)、主要な避難所(学校、公園、駅、公共施設等)において、地下水利用の自家用水道を膜ろ過浄水設備、自家発電設備とセットで整備することにより、膨大な浄水場や管路の耐震化投資よりも低いコストで、基本的な応急体制の確保が可能となります。こうした分散型の地下水利用水道の整備については、積極的に民間の力を活用し、平常時より適正な地下水利用を行うことで、公的支出を伴わずに効率的な地域防災力の向上を図るという点についても言及が必要と考えます。

〈理由〉
阪神・淡路大震災における上水道供給不能についての次のような教訓を生かす必要があると考えます。

  • 阪神・淡路大震災では、兵庫県内の全給水戸数の約9割に相当する126万5730戸で断水した。
  • 兵庫県医務課の行った調査によると、病院の医療機能を低下させた主原因として「上水道の供給不能」が全体の4分の3近くと最も多くあげられた。
  • 各種ライフラインなどの復帰、充足状況においても、最も復帰率が悪く、遅れたのが上水道だった。
  • そんな中で、地下水(井戸)を利用した給水設備は被災時にも断水せず機能を果たした。

災害時の水対策については、社団法人空気調和・衛生工学会『災害時の水利用』で、兵庫県企業庁水道課の職員が強く指摘した貴重な教訓を生かすべきと考えます。


6. 環境保全の観点からの地下水涵養、有効活用の促進

〈該当箇所〉
10ページ「長期的な政策目標 C環境:環境保全への貢献」、23ページ「エ. 環境・エネルギー対策の強化に係わる方策」

〈意見内容〉
健全な水循環の保全のためには、地下水の保全が欠かせません。地下水の涵養、地下水の流動系・水量(水位)・水質を継続的にモニタリングすることによる土壌・地質汚染の早期発見と水循環の健全な管理等に関する記述を追加すべきと考えます。また、地下水利用小規模水道の省エネ・省資源メリットについての記述の追加も求めます。

〈理由〉
二次元の表流水に対して地下水は、三次元・四次元の水といえます。まず、雨水と同様、それは地表面に対して垂直軸上に存在するという意味で三次元の水です。また、雨水や表流水が地下に浸透し地下水として涵養され、井戸水や湧水として私たちが利用するまでには数年〜数万年を要し、まさにそれは時間軸上に存在する、現在から将来世代に続く四次元の水ということができます。

おいしい地下水を守ることは、大気や表流水の水質を守ることであり、地質環境を守ること、次世代に良好な水環境を残すことです。地下水の適切な有効利用は、健全な「四次元の水循環」を守るという、私たちにとって新しい環境保全の重要事項であります。

7. 国民・利用者とのコミュニケーションの推進

〈該当箇所〉
26ページ「7.関係者の参加による目標の達成」の「需要者である国民」に関する記述。

〈意見内容〉
需要者である国民についての役割に言及するだけでなく、行政及び事業者による国民・利用者に対する情報提供と、行政及び事業者と国民とのコミュニケーションの推進について言及していただきたい。特に、自分が飲んだり利用している水がどのような水源からどのような浄化・配水プロセスを経て提供されているのかというトレーサビリティ情報の提供は、国民の水道への関心を高め、理解を深める上で重要な要素であり、是非積極的な記述をお願いします。

〈理由〉
この水道ビジョン案全体に、行政と水道事業者団体のためのビジョンという印象を強く受けます。国民・利用者の視点を重視する観点から国民への情報提供・コミュニケーションは不可欠であり、水道事業及び健全な水循環構築・保全への国民参加の前提といえます。

欲を言えば、市民(国民)が読んで共感を覚えるような、水道ビジョンの普及版の作成をお願いしたいところです。




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