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被災地の復興現場:石巻市雄勝町の漁師会社オーガッツを訪ねる

福田栄二

 東日本大震災から16か月が経とうとする201295日、被災地の復興状況視察のため、宮城県石巻市雄勝町を訪れました。

雄勝町は仙台から車で2時間ほど北に離れた沿岸部に位置しており、この日は仙台駅からレンタカーを借り、松島を経由して雄勝へ向かいました。道中の車窓から眺める黄金色へと色づきはじめた稲穂の景色は、初めて宮城県を訪ねた私にとっては震災の影響を感じさせることのない穏やかなものでした。しかし、雄勝町内に入るとその景色は一変しました。目に入ってきたのはところどころに残る廃墟と化した建物や瓦礫の山、そして、その間を行き交うトラックでした。雄勝湾の近くに車を停め、町を歩いてみるものの民家はほとんどなく、震災前の町の様子など想像できませんでした。また、雄勝公民館や病院など3階建て以上の建物が津波に呑まれたという事実は、目の前に広がる穏やかな雄勝湾からは到底信じられないものであり、被害の甚大さは予想以上のものでした。

この雄勝では、こうした被災状況だけでなく、震災後の復興に向けた動きとして新しい漁業に取り組む合同会社OHガッツ(オーガッツ)の立花貴氏にお話を伺いました。オーガッツは、震災後に強い漁業を目指して漁業関係者によって設立された共同で養殖から加工販売事業まで行う合同会社です。今回は、オーガッツで事業家兼漁師としてご活躍されている立花氏から復興に向けた思いや取組みをお聞きしました。

 

「被災地の問題ではなく、日本の将来の問題」

まず、立花氏はオーガッツの取組みを語るうえで最近は被災地や復興、ボランティアという言葉は使わないようにしていると言われました。それは、オーガッツの取組みを通じて単なる復興ではなく雄勝から日本の新しい漁業、コミュニティのあり方を示したいとの思いがあるからとのこと。震災前の雄勝は人口4300人の少子高齢化が進む小さな田舎町でしたが、震災の影響で1000人前後へとさらに減少しました。立花氏はこの現状を、被災地の問題ではなく日本の将来の問題として捉えておられました。漁業を取り巻く環境が厳しいのは、従来から日本全体が抱える問題。また、震災がなかったとしても過疎化、少子高齢化は雄勝や日本の多くの市町村が直面する問題であり、震災によって雄勝は20年早くこの問題を抱えただけとおっしゃられた。

「元に戻すのではなく、新しいものを」

オーガッツでは、合同会社という生産者同士のネットワークを作り生産から加工、販売までの一連の過程を自分たちで行うことで品質、価格のコントロールを含むブランディングによる強い漁業を目指されています。現在は、「そだての住人」という養殖オーナー制度を実施中。単に商品を買うのではなく、実際に雄勝を訪れ、養殖作業の見学や手伝いなど現場に参加して、携わる漁師を知っていただき一緒に育てていくというもので、既に多くのオーナーが集まり、今年は銀鮭などの出荷が行われています。また、今後は加工場の設置や東京での店舗出店等も計画されています。「復興とは震災前の状態に戻すことではない」と立花氏。町としても生産拠点としても持続可能なカタチの新しいまちづくりを目指されていました。

お話を伺う中で立花氏が何度も口にされていたのが「グッとくる」という言葉。震災後すぐに現地へ入り活動を継続的に展開されてきた立花氏は、今では住民票を雄勝町へ移し、一週間に東京と雄勝を2往復しながら、多くの人々をご自身の車に乗せて雄勝の現場へ連れてこられている。こうした活動を続けられているのは、立花氏自身が「グッとくる」という感覚のもと動かれており、「グッとくる」経験を多くに人にしてほしいと考えるからだと思いました。私自身、今回の訪問の中で、東京にいて頭で考えているだけでは知ること、感じることのできない多くの出来事に出会えたことで、改めて現場を知ることの大切さを教えられました。そして、そこから本質を見極め、自分事さらには社会全体の事として捉えることが重要であると痛感しました。今、私たちに求められていることは復興支援という視点ではなく、「今、ここ、自分」にできる「グッとくる」アクションなのかもしれません。まずは私自身が、現場を大事にしながら「豊かで持続可能な社会」の実現に向けて「グッとくる」アクションを積み重ねていきたいと思います。


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